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母のドーナツ [食いしん坊]

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友達から「綱かりん糖」というお菓子をもらいました。
おいしそうな色合い、歯ごたえのしっかりありそうな質感。眺めているうちに記憶の底がざわめきはじめ、なにやら浮上してくる気配。
そうでした。それは、母が「ドーナツを作ってあげる」といった日のことです。
私は4歳くらいだったでしょう。ドーナツを食べた経験があったかどうかは思いだせませんが、リング状のお菓子だという認識はありました。
大人たちがなにやら立ち働いているあいだ、私はおとなしく待っていました。
やがて私の前に、のし餅をもっと薄くしたようなものが運ばれました。
薄いのし餅を、茶碗と杯をもちいて、リング状に型抜きするのです。私もさせてもらいました。
いよいよ揚げにかかります。
ドーナツが揚がるまでの時間は、幼心には半日も経過したように思われました。
誰かが小声でいうのが聞こえました。「ふくらまない」
再び待って、さらに待って、やっと、待望のドーナツが。
それは、型抜きをしたときと同じように平べったい、少し焦げたような色のリングでした。
手に取ると重く、かじると…力をこめてかじると、“ドーナツ”がカケラになった勢いで、頭蓋骨がビョョ~ンと振動する感じ。なんだか違うなぁ、という思いが心をよぎりましたが、子供は文句をいってはいけないのです。
今になって考えると、母はかりんとうの生地にふくらし粉を入れればドーナツになると思ったのでしょう。
しかもよくよくこねたので、コシの強い生地ができたに違いありません。
揚げてもなかなかふくらんでこない。今か今かと思っているうちに焦げ色がついちゃった。
まあ、こんなことだったのではないでしょうか。

いただいた綱かりん糖は、ほどほどの固さ。パリッと噛んだときの歯ごたえが気持ちいい。
甘さは控えめ。こうばしくて、おいしいです。
母のドーナツはもっと甘く、少し焦げ臭かったなぁ。
でも、なんとなく似ている。
綱かりん糖を一口食べるごとに、あの日の様子が、ビデオでも見るように思いだされます。
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コメント 4

tocco

すてきなお話ですね。
子供心に、お母様のドーナツよ、膨らめ、と祈るような気持ちだったのですね。そして、膨らまなくても、お母様の愛情は子供の心に満ちてあふれ、4歳の心に残ったのですね。
成功していたら忘れていた出来事だったかもしれません。

by tocco (2012-07-14 20:08) 

tree2

綱かりん糖、ごちそうさま。今もコーヒーのおともにカリカリかじっています。
おっしゃるとおり、母が成功していたら、私は忘れた可能性ありですね。
あとで笑える話って、体験している最中は「ひどい!」ですよね。
by tree2 (2012-07-15 11:30) 

SILENT

最近ネットで読んだ「パンの耳からカリントウ」で
手作りカリントウのバージョンにはまっています。
麻布かりんとうも好きなのですが、野性味が、、、
by SILENT (2012-07-17 05:12) 

tree2

先日、富士山麓パワースポットめぐりのとき、その朝作ったというパンの耳かりんとうをご馳走になりました。サクサクした食感で、シナモン風味。おいしかったです。
麻布かりんとう…知らないなぁ。有名なんですか?
by tree2 (2012-07-17 14:48) 

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